オンラインサロンの登場

無料で誰もが様々な情報を共有できるのが従来のインターネットの在り方でしたが、そうしたインターネットの開放性とは対照的に近年顕著になっているのが「オンラインサロン」と呼ばれる会員制の情報交流サイトの登場です。

オンラインサロンを主催するのは著名な経営者であったり、名の知れたタレントであったり、あるいは特定の分野におけるカリスマと呼ばれる人たちであったりします。

それらの有名人や特定分野のカリスマが主催するオンラインサロンは、例えば月額数百円~数千円(あるいはサロンによっては数万円)の会費を納めたメンバーだけが参加でき、メンバーだけが閲覧できるアーカイブや、メンバーにだけ許される物販の購入やセミナーへの参加などを通じて、主催者と会員が直接的・間接的に交流したり、会員同士で交流することができる「場」となります。

開放から閉鎖へ

オンラインサロンの登場は、無償で不特定多数の人々に開放されたインターネットの在り方とは逆行する流れのようにみえますが、いま何故閉鎖的なオンラインサロンが数多く登場しているのでしょう?おそらくは以下のような理由が考えられます。

  1. ネット上の(無料の)情報がたいして価値のないものやフェイクなどであふれているから
  2. 社会的格差や価値観の多様化が進行した結果、これまでよりも細分化された情報が必要となっているから
  3. あまりに多くの雑多な情報の中から方向性を示してくれるカリスマ(サロンの主催者)の思想や世界観を共有したいから

というような理由が考えられます。

インターネットを利用しSNSなどを通じて情報発信をすることは現在だれにでもできるようになった結果、精度の低い情報やフェイクの情報も数多く発信されるようになりました。加えて、SNS上での意図的な荒らしなど、SNSなどの非生産性も目立ってきました。

そのような中で、サロンの主催者(カリスマ)を中心に、サロン主催者の考え方や世界観に共感する人々が集まり、彼らだけの価値観を共有・育成する場所として設置されるのがオンラインサロンです。サロンの中では価値観が同じ人が集まるので荒らしも炎上もなく、スムーズな議論を行うことが可能です。逆に、主催するカリスマに対しあからさまな反論などは行いにくいため、議論が硬直化し、イデオロギー化するという弊害もあるでしょう。

いずれにしてもサロンの主催者は、会費を払って会員になった者だけの閉鎖的なネット空間を作って情報と価値観を共有させることで、そこに参加者同士の一体化や特権意識も植え付けることが可能となります。

そしておそらくは、このような世界観の共有や特権意識といった目に見えないものこそが、サロンの参加者を持続的にサロンに引き留める(=会費を持続的に払ってもらえる)大きな要素なのです。

サロンが単に有料の情報を会員に供給するだけだったり、限定商品を販売するだけのものであれば、利点や特典を短期間享受した会員は、すぐに辞めていってしまうでしょう。しかし、価値観や世界観といったレベルでの会員同士の結びつきを感じることができれば、たとえ利点や特典に飽きてもサロンにとどまり続けるでしょう。というのは、混沌とした情報の海の中で、羅針盤となり得る価値観や世界観を提示してくれるサロン主催者への信頼のもとに集まった集団は、利害のみで結びついた集団よりも心的な結束が強いからです。

オンラインサロンの行方

オンラインサロンが主催者のカリスマ性に基づいて単なる利益のやり取りを超えた心的な結びつきを志向するものだとすれば、下手をすればそれはカルト的な集団の形成に利用されることもあるかもしれませんし、高額な会費を収奪する詐欺的な組織に利用されることもあるかもしれません。参加者は常にサロンを俯瞰的にみて、会費の値段の整合性、サロン内の議論の客観性などをみながら、サロン全体を合理的な目でみていく必要があります。

現在オンラインサロンを一定の規模で主催できるのは実質的に著名な人物に限られているようですが、多様な価値観に基づいた多様なグループが数多く出現する現在にあっては、無数の小規模のサロンが今後さらに増えていくことが予想されますし、企業もそのようなサロンと提携しながら販売を促進していくことも珍しくなくなるでしょう。サロン自体が独自の理念や世界観を反映するような商品を製作販売する企業体として活動する場合もあるでしょう。

日本ではバブルの崩壊以降(遅くともリーマンショックまでの間に)、日本の国民がみんな中流の稼ぎがあって、夫と妻と子供と暮らすことができるマイホームを持つことができるという国民総中流意識の「物語」は終わってしまいました。貧富の差は拡大し、男性の経済力は相対化され、女性も労働力として外に出なければならなくなり、お一人様が増え、子供は減り、若い労働力も減り、現在では海外からの移民(労働力)も受け入れるようになりました。良いとか悪いとかという問題ではなく、現実として日本の中で多様なグループが存在し、それぞれの価値観や習慣に基づいて多様な意見が主張されるようになりました。

多様化した社会の中では、議論も利害もまとまりにくく、聞く音楽の種類も身に着ける衣服も習慣や言葉遣いもそれぞれ違ってくるでしょう。そのような拡散する多様性にいささか辟易した人たちが閉鎖的なサロンに同質的な居心地の良さを感じているのが現在の状況かもしれません。

オンラインサロンが今後どのように展開していくのか、そしてそれは(写真家やミュージシャンや文筆業など)クリエイターにとってどのような利点があるのか、注意深く見ていく必要がありそうです。