「最後通牒ゲーム」の心理とクリエイター報酬の決定

「最後通牒ゲーム」の心理とクリエイター報酬の決定

クリエイターの報酬はどのように決定されるのか?

ネットを通じての写真販売や、音楽配信、記事の配信などの際に(カメラマンや作曲家やライターなどの)クリエイターに支払われる報酬(ロイヤリティー)は下がることはあっても上がることはあまり期待できないのが現状のようです。では、それらの報酬は、どこまで低く設定されるのでしょうか?この記事では、報酬の分配に関する心理実験として知られている「最後通牒ゲーム」の心理を見ていきながら、クリエイター報酬(ロイヤリティー)の決定システムについて考えてみたいと思います。

最後通牒ゲームとは?

「最後通牒ゲーム」というのは、経済学のみならず心理学、社会学、政治学など様々な研究分野で応用されている理論ですが、主に報酬の決定に関する心理を分析する際に多く利用されているようです。これについての数多くの研究や解説があり、ネット上でも深く知ることができると思います。このゲームのルールについては以下のようになっています。

ゲームの目的

このゲームはAとBという二者の間で行われるゲームで、AさんとBさんの間で報酬(例えば1万円)をどのように分配するかを決めることを目的としています。

ゲームのルール

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  • Aさんが「提案者」となり、Bさんは「回答者」となります。
  • 提案者(Aさん)は回答者(Bさん)に対し10000円をどのように分けるかを提案することができます。
    例えば、「9000円を自分(Aさん)が取り、残りの1000円をBさんが受け取る」という提案を、提案者であるAさんは、回答者であるBさんに提示することができます。
  • 回答者(Bさん)は、提案者(Aさん)の提案に対し、「イエス」か「ノー」かだけ答えることが許されています。
    したがってこの場合、Aさんの提案に「イエス」と答えれば、Bさんは1000円をもらえ、Aさんは9000円を受け取ることができます。
  • ただし、提案者(Aさん)の提案内容が回答者(Bさん)にとって納得がいかないと感じた場合、回答者(Bさん)は「ノー」という拒否権を発動することができます。そして拒否権が発動された場合は、AさんもBさんも1円ももらえません。
    この拒否権の発動によってBさんは、あまりに不公平なAさんの提案に対し、自分の利益(1000円)を捨ててでも制裁を加えることができるのです。

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提案者Aさんの提案内容が、自分(Aさん)に5000円、Bさんに5000円という平等な分配となる場合や、Bさんの方にそれ以上の利益をもたらすような提案の場合は、Bさんが「イエス」と回答する確率は高まりますが、上記の例のようにBさんの取り分がAさんよりも著しく低い場合はBさんによって拒否権が発動される可能性が高まり、二人とも利益を失ってしまうことになります。

では、ネット上で作品を販売するクリエイターの場合、どれくらいの分け前がもらえれば販売会社(A)の提案内容に対してクリエイター(B)は拒否権(=作品を撤去すること)を発動することなく報酬を喜んで受け入れるのでしょうか?

どこで拒否権を発動するか?クリエイターの心理

経済性だけでは測れない人間の心理

最後通牒ゲームで特に興味深いことは、人は(報酬の決定に際し)経済的な合理性によってのみ動くものではないということが示されている点です。特に、プレイヤーB(回答者)に与えられた「拒否権」の行使は、経済合理性という点からはマイナスとなる行為を、ある状況下では進んで行う人間の「報復」という心理を如実に示しています。

純粋な経済合理性から考えれば、プレイヤーA(提案者)からプレイヤーB(回答者)に提示される報酬額が極めて低い場合でも、Bは拒否権を発動して取り分をゼロにするよりは、提案を受け入れて僅かでも報酬を得る方がプラスとなります。ところが、例えば1万円を分配する場合、Aが9000円、Bが1000円という提案の場合、Bが拒否権を発動する割合が圧倒的に高くなります。それは、経済合理的な判断よりも、心情的な判断が上回り、分配が極めて不公平だという心理がBに働くからです。その結果Bは、自分と同時に相手の報酬もゼロにすることができる拒否権を発動し、そのような不公平な提案をしたAに「報復」することを優先するのです。

40%の境界線

もちろんこの報復的な心理が働く境界線は、実際には人によって差があり、100円でも受け入れる人、3000円でも受け入れない人など様々だと思いますが、Bの取り分に対する提案が40%(4000円)を下回るにしたがって、拒否権の発動率が高まることが知られています。ストックフォト会社をみれば現在単品販売だけを行うところはほとんどなくなりましたが、日本のPixtaが(専属で単品販売の場合)最大60%をクリエイターに還元していることは、同社の人気や知名度の高さ(専属登録希望者の増加やそれによるアーカイブのオリジナリティの高まり)に貢献していることは明らかです。最後通牒ゲームの心理から言えば、プレイヤーB(回答者)は報酬の決定に際し50%を上回る取り分の提案を拒否しようとする心理は働かないのです。また日本の会社ではありませんが、同様にカナダのストックフォト会社(cooperative)Stocksyもクリエイターに対する高い還元率を維持することで優秀なクリエイターを集めることに成功して人気を博しています(売り上げも好調のようで現在Sotcksyのクリエイターになりたい人が多すぎて募集を停止しているほどです)。

だからといって、それ以下の割合を提示しているストックフォト会社すべてに拒否権が発動されると言っているわけではもちろんありません。定額制の低い還元率でも高い販売率(販売数の多さ)をクリエイターに提供することができれば多くのクリエイターを魅了することができるでしょう。販売会社は実際の取引においては、報酬のパーセンテージと販売数とのバランスをとることによって、クリエイター側からの拒否権の発動(作品の引き揚げや登録拒否)をコントロールすることが可能となります。それに加えて、(詳しくは次回の記事に続きますが)インターネットというネットワーク特有の現象として、最後通牒ゲームの心理に当てはまらない人たち=インターネットにおける無償協力者が増えてきたことで、上記のゲーム理論の40%の境界線が現在非常に流動的になりつつあるという現状があります。そのようなネット特有の「協力者」に参加を促し、ネットビジネスを運営するという方法も(ストックフォト以外でも)益々増えてきています。

低い報酬の提示でも拒否権を行使しないネットにおける無償協力者の存在と彼らの心理について、次回(こちらの記事)見ていく予定です。

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