生成AI動画をストック動画として販売することのコストパフォーマンスについて

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Nov 2025

ストックフォト(写真)の場合、AIの急速な進歩で、従来のストックフォトの品質と同じ程度のものがAIで量産できるようになりつつあります。写真では撮影がしにくい病院内のイメージやオペシーン、建築現場や工事現場のイメージ、SFのような空想のシーンなどでは、AIの方が簡単かつ安く多くのイメージを作成できるでしょう。

動画もおそらくそうなる日も近いのかもしれませんが、コストパフォーマンス&タイムパフォーマンス的にAI動画が実写動画を上回ることは、写真の場合よりも時間がかかるかもしれない、ということについてみていきたいと思います。

生成動画・生成写真共通して現状での最大の問題は、生成AIにおける法的な問題といえるでしょう。つまり、もし生成AIで作ったイメージをストックフォト会社で販売し、その生成AIイメージに著作権や肖像権の違反があった場合、誰が責任をとるのでしょうか?生成AIの会社か、生成AIを使ってイメージを作った人?それとも、生成イメージを販売したストックフォト会社、あるいは生成AIイメージを購入した人?

生成AIサイトの規約では多くの場合、作成した生成物に法的な問題があったとしても、生成AIサイトではなく生成した者(プロンプトを入力して生成イメージを作った人)に責任が生じるという規約を採用しています。

ストックフォト会社で販売した生成AIイメージに肖像権や著作権の問題が生じたときに、だれが責任をとるかという点は、基本的には素材をアップロードした者、つまりクリエイターに責任がある旨がどのストックフォト会社の規約にも書かれています

実写で写真や動画を撮影する場合は、モデルリリースやプロパティーリリースを書いてもらうので、生成イメージよりも法的な問題は起こりにくくなっています。生成イメージの場合は、AIが勝手にイメージを作るため、作成者のあずかり知らないところで、著作権や肖像権に問題があるイメージが生成される可能性もあり得ます。プロンプトの入力で明らかに実在の人物を参照するように命じている場合は別として、作成者本人が意図しないところで、AIによってイメージが生成されてしまうので注意しようがありません。そしてそのような場合でも、法的な責任は作成者本人に帰されるという理不尽さがあります。

生成AI写真の場合には、こうした法的な危険性を度外視して、生成の容易さや数的な生産性の向上というコストパフォーマンスの良さから、AIでストック写真を作成するという考えもあるかもしれませんが、生成AI動画の場合はどうでしょうか?以下、コストパフォーマンスという面からみていきます。

ざっと調べてみると、例えば、4K動画が作成できるRunway のProプラン(月額28ドル)では、(5秒程度の)4K動画を10~15本くらい生成可能です。Google Veo3のProプランとUltraプランで4K動画が作成可能で、Proプラン(月額2900円)では最長8秒の4K動画が10本、Ultraプラン(月額3万6400円)では最長8秒の4K動画を125本作成可能です。

HDサイズの動画ならもう少し安いプランもありますが、4Kが作成できないとストックフォトの販売では不利になるので、どうしても4Kが必要となります(現在ではまだ4Kサイズで動画が生成できるサイトは少ないようです)。

しかも、ストック動画として販売できるレベルの動画を作るためには、動きの不自然さや、プロンプトの意図とのずれなどを調整するために、数回かそれ以上の再生成が必要になることも少なくありません。そうすると、上記の生成可能本数の何分の一かに減ってしまい、なおかつ、それらがすべてストックフォト会社の審査に通るとも限らないのです。

加えて、AI生成動画の5秒や8秒という長さの制限は、実写のストック動画の長さが15秒前後のものが中心となっている中で、顧客にとってはかなり短い動画に感じられると思います。

AI技術は日々進歩しているようなので、将来的にはもっと効率よく動画の生成ができるようになるとしても、現状ではライフスタイル的な人物テーマであれば実写で撮る方がタイムパフォーマンス・コストパフォーマンス的にはるかに良いといえます。他方、SFのような演出、特殊な背景が必要な場合は、逆にAIの方が強く、テーマによってはAI動画の方がコストパフォーマンスが良くなる場合もあるでしょう。

個人的にはもし生成AI動画でストック動画を作るとしたら、Perfumeのライブのような光の演出の背景、カプセル内視鏡が写し出す小腸の中、素粒子のクローズアップ、半導体の基盤を洗浄する超純水、を生成しようと思います。間違っても、生成AI動画で笑顔の女性のポートレートなど生成しません。

こうしてみると、現状では何から何まで生成AIの方が優れているというわけではないようです。コストパフォーマンス的に見て、実写の得意分野と、AIの得意分野、それぞれ使い分けながら動画を作成していくことが重要です。

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