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― 混ざり合う違和感が、こんなにも美しい―

奥山由之『Bacon Ice Cream』は、タイトルからしてすでに挑発的です。どう考えても混ざり合いそうもない「ベーコン」と「アイスクリーム」の組み合わせ。それらをこの写真集の中でいかに美味しく調和していくのかという期待が高まります。そしてページをめくるたびに、その期待は裏切られず、むしろ想像を軽々と飛び越えてくるのがこの作品の最大の魅力です。

―異質なもの同士が生む美しい衝突

ベーコンとアイスクリームという、普通なら交わらないものを並置するように、奥山氏は日常の中の違和感を大胆に切り取ります。美味しそうなオムライスを不機嫌そうに食べる金髪の女性の後ろ姿、目と鼻とおでこだけが照らされた女性のポートレート、半分ビルに隠された夜の看板、真夜中に裸足で(ダンスをしている?)顔の写っていない男性、顔がハレーションを起こしているファッションモデル、傘もささずに雨の中を歩く女性の足元。

全体的にざらついたフィルムの粒子感と大胆な陰影のつけ方とも相まって、それらの組み合わせは決して奇をてらったものにはみえず、むしろ新しい感覚を呼び覚ます視覚体験として成立しています。こんな見方があったのか、と思わせる視点の鋭さが作品全体に貫かれています。

―色彩と質感を自在に操る

奥山氏の作品を語るうえで、色彩と質感の扱いは欠かせません。この本でもそれは圧倒的で、ページをめくるたびに(フィルム)写真という媒体はここまで豊かに世界を変換できるのかと驚かされます。

まず目を奪われるのは、光の密度です。ただ明るい・暗いという単純な光ではなく、いわば湿度や温度まで感じさせるような層の厚い光が描かれています。柔らかく拡散する光が被写体の輪郭を曖昧にし、逆にハレーションすれすれの強いハイライトが質感を鋭く浮かび上がらせる。そのコントラストが、作品全体に独特のリズムを生み出しています。

色彩においても、奥山氏は自然と人工の境界を巧みに揺らします。淡いパステルのような色調がふと現れたかと思えば、次のページでは飽和ぎりぎりの強烈な色が飛び込んでくる。その振れ幅が、写真集のタイトルにも通じる異質なものの共存を視覚的に体現しているようにみえます。

さらに注目すべきは、ざらついたフィルムのような粒子感、肌や物体の表面に宿る微細なテクスチャ、空気中の埃や湿気までも写し取ったような空気感。これらがあたかも触れられるのを待っているかのようなリアリティあるものとして写し出されるのです。

―物語を語り過ぎない美学

ネット上にある『Bacon Ice Cream』のレビューや感想をいくつか読んでみましたが、この写真集には物語性が希薄な点に賛否があるようでした。エモいけれど分かりにくい、といったような感想もありました。

実際、この本を繰り返し見ても明確な「物語」は見えてきません。むしろ、写真同士がゆるやかに連なりながら、どこか曖昧な物語の断片が流れていくような印象があります。その曖昧さこそが、見る側に「この写真は何を語ろうとしているのだろう」と問いかける余白を生み出しているともいえます。

この本の中では人物が写っていても、その表情やポーズが物語を決定づけることはありません。むしろ、視線の外側にあるもの、写真の外に広がる世界を想像させるような構図が多く、ページの外側に物語が続いているような感覚を抱かせます。

この本で描かれる様々な場面は、決定的瞬間を切り取ったものというより、時間がゆっくりと滲み出してくるような静けさがあります。その静けさが、見る側の心にスペースをつくり、写真と自分自身の記憶や感情が自然に重なっていく。この重なりこそが、この作品の深い余韻を生み出しています。

この本を見る側は自分の思いや感情をそこに投影し、写真と対話するような体験が生まれる。それはこの本が物語を語り過ぎないからこそできることなのだと思います。

 

 

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