ストラトキャスターに著作権

注目の判決

 

ドイツでフェンダーのストラトキャスターに著作権が認められました。2026年3月9日にデュッセルドルフ地方裁判所が、フェンダーと中国企業との裁判においてフェンダー側の主張を全面的に受け入れてエレキギターのストラトキャスターモデルの形状に著作権を認める判決を出しました。
これは意匠権の枠組みを超えて、ストラトのボディ形状そのものが「著作物」として保護されるという画期的な判決です。この判決はギター業界のみならずギターを撮影するフォトグラファーや写真販売業者にとっても大きな影響を与えることが予想されます。フォトグラファーの立場からストラトに認められた著作権が写真や動画の撮影に及ぼす影響について考えてみたいと思います。

ストラト撮影の可否

複製権の問題

商品等の応用美術品の形状やデザインはこれまで著作権ではなく意匠権で保護するというのがどこの国でも共通認識となっていました。ほんのわずかな例外を除いて(例えば、独創性の高いプリントシャツの絵柄など)応用美術に属する商品デザインには著作権が認められることはほとんどありませんでした(意匠権については以前書いたブログ記事「ストックフォトと意匠権」をご参照ください)。

しかし今回のデュッセルドルフ地裁の判決では、ギター(ストラトキャスター)という商品の形状が著作物として認められたのです。このストラトキャスターという世界中に無数にある商品の形状に著作権が認められたということで、この判決はギターに関心のある人やギター関連の企業のみならず、それを撮影するフォトグラファーや写真販売会社からも注目されています。

特にフォトグラファーや写真販売業の立場から見ると、著作権が認められたということは、今後ストラトの写真を撮る際には「複製権」に注意して撮影する必要があることを意味しています。

複製権は(日本では)著作権法第21条によって認められている権利で、著作物を複製(コピー)できるのは著作者(著作権者)のみとする権利のことです。したがってフォトグラファーが不用意に著作物を撮影すると、この複製権を侵害する可能性がでてきます。

具体的には、ストラトの形状をトレースしたり、ストラトの輪郭や形状をはっきり撮影したり、均質な(=独創性のない)ライティングで撮影したりすることは、複製権を侵害することにつながります。私的な利用については複製権の侵害は生じませんが、しかし実際にはフォトグラファーが撮影をするときには私的用途を超えて商用の撮影を行うことがほとんどとなるため、複製権を侵害する可能性は非常に高くなります(プロパティーリリース等著作者の許可があればもちろん問題ありません)。ただし、非常に独創的なライティングで元のストラトの形状とは異なるイメージで撮影する場合や、メインとなるモデルやアーティストがいて、そのモデルやアーティストがストラトを弾いているというようなシーンの写真や動画であれば、複製権を侵害しない場合もあるようです。

しかし、どこからが複製権を侵害しない撮り方になるのかは非常にあいまいで、その都度出来上がった写真や動画を見て最終的には裁判所でのみ判断されることになるでしょう。したがって、ストラトキャスターを撮影する際には、映り込みも含めて安全性を優先して、著作権(複製権)を少しでも侵害しそうな撮影は行わないのが得策だといえます。

尤も、現状ではストラトの著作物性が認められたのはドイツ=EU圏内(EU内の国で出た判決はEU全体に適応されるとうい規定がある)だけなので、日本やアメリカ等、EU圏外の法律には今のところ抵触しないことになります。

 

ストックフォトとしての販売は可能か

この判決の効力は現状でEU圏に限定されるとしても、ストックフォトでストラトの写真を販売することは非常に難しくなることは明らかです。

というのは、ストックフォトはEU含めた世界中で販売されることが想定されていることに加え、私的用途を超えて、ほとんどが広告用途に使用されるからです。加えて、フェンダーが同様の訴訟を世界各国で起こすことも考えられます。

したがって、ストラトのストックフォトとしての扱いは「エディトリアル」の扱いで販売されるか、規約を追加してストラトの写真の使用範囲を私的使用のみに限るなどの方策が必要になるかもしれません。

ちなみに、(2026年3月16日現在)いくつかのストックフォトサイトではすでに検索で「ストラトキャスター/stratocaster」で出てくるギターはすべてエディトリアル扱いで販売しています。ストラトのみならず、「エレキギター/electric guitar」で検索した写真もすべてエディトリアル扱いになっているサイトもありました。

ストラトキャスターに著作権が認められるのであれば、「レスポール」「フライングV」「SG」「リッケンバッカー」にも著作権がいつ認められてもおかしくないと予防線を張ってすべてのエレキギターの画像や映像をエディトリアル扱いにしたものと思われます。

撮影する側や写真を販売する側から見ると、商品や物品に容易に著作権が認められると撮影自体が困難になるので非常に困ります。背景やアイテムはすべて著作権フリーの形状にAIにつくってもらい、人物だけ白バックやグリーンバックで撮影してそれらと合わせるか、人物含めてすべてAIにまかせるというやり方が近い将来主流になるのかもしれません。

実際、最近のネット広告では、従来は実写の写真(ストックフォト)が使われていたところに、「AIで生成」「ChatGPTで生成」などと書かれたAI画像が使われているのを何度も見ました。ストックフォトやストックフォト会社のAI画像ではなく、自ら直接AIで画像を生成していることがわかります。広告写真において自分でAIを使って生成することが主流になれば、フォトグラファーもストックフォト会社もお役御免ということになります。ストックフォト会社はしばらくは膨大なストックの画像をAI生成企業にラーニング用に貸し出すことで利益を得ることができますが、一通り各AI生成プラットフォームにラーニング用素材を貸し出した後は、急速に業績が悪化してしまうでしょう。自らAI生成プラットフォームとなることを目指しているストックフォトサービスもありますが、本家のAI生成プラットフォームとの競争に勝つことは容易ではありません。少し話題がそれてきたので、今日はこの辺で終わりにしたいと思います。

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