文化コードから多様性へ:これからのストックフォトの方向性について
スマートフォンとストックフォト
ストックフォトの撮影で、安易だと思いつつも、ついやってしまうことがあります。
それは、スマホを持ったモデルさんの撮影です。
なぜ人物+スマホを撮影してしまうかというと、ストックフォトとして分かりやすく一定の需要が見込まれるからに他なりません。
個人的には(パソコンはともかく)スマホは現代の必要悪だと思っていますが、スマホという一つのアイテムを登場させることで「コミュニケーション」「ビジネス」といった明確な意味合いを写真に持たせることができるため、撮影用アイテムとしてのスマホは多くのストックフォトグラファーに重用されています。
けれども(自分が撮ったもの含め)そのような写真は新鮮さという点ではすでに輝きを失っているかもしれません。
さらに言えば、スマホを持ったビジネスマンに象徴されるような、既存の「文化コード」を写真に写し込むこと自体がストックフォトにおいて鮮度を落としているようにみえます。
「文化コード」とは?
従来のストックフォトは既存の「文化コード」を写真に埋め込むことを良しとしてきました。
既存の「文化コード」とは、「男は強くあるべき」とか「女性は淑やかであるべき」とか、「ビジネスマンの服装や持ち物はこうあるべき」などなど、(各々の国の)社会の中で長年の習慣の蓄積=「文化」によって形作られてきた規範体系です。
中年の男性がピンク色の携帯を持ってはいけないと誰が決めたのでしょうか?
タトゥーをいれた看護師さんよりタトゥーのない看護師さんにケアしてもらいたいですか?
真夏の就活でノーネクタイノージャケットで面接に行ってはダメでしょうか?
もしこれらの人々に違和感を感じるとしたら、それが文化コードの力です。
「文化コード」とストックフォト
従来のストックフォトは、最大公約数に支持される「文化コード」を巧みにイメージ化して販売数を伸ばしてきました。
売るためには「文化コード」から遠い人々を撮るより、「文化コード」のど真ん中にいる人たちを撮るのが近道でした。
スマホを持ったビジネスパーソン、健康で明るい笑顔の若い女性、きれいなリビングでくつろぐ30代夫婦と子どもの姿などはいずれも最大公約数の(日本の)人々が安心する「文化コード」の中心にいる人たち=広告写真として最も受け入れられやすい人々といえます。
「文化コード」から「多様性」へ
けれどもマイクロストックの全盛期を経た現在、従来のストックイメージとは異なる観点でストックを撮っていくことがますます求められるようになってきています。
それが「文化コード」から「多様性」へという流れであり、そうした方向性は実際一部のフォトグラファー(例えばGettyimagesやStocksyあるいはiStockの一部のフォトグラファー)によって実践されはじめています。
「文化コード」の中心から離れた人々への積極的なまなざしが、従来の文化コード一辺倒のストックとは異なっているといえるでしょう。「文化コード」の中心から離れれば離れるほど、被写体として撮影の機会が非常に少なくなるので、そのような撮影は難易度が高くなります。
例えば、LGBTの人々は残念ながらまだ現在の日本の中では文化コードの中心から離れた存在と言わざるを得ませんが、LGBTの人々と知り合って写真を撮らせてもらうことは一朝一夕にできることではありません。ディスアビリティーの方々や難病と戦う人々も同様です。
これまで文化コードの中心に向いていたベクトルをマージナルな方向(境界や周辺)へと方向転換させて、中心に属していない人々を主人公として積極的に描き出すことが今後のストックフォトにとって(またマージナルな人々の権利向上にとっても)重要な要素となっていくことは間違いありません。
中心に向かっていたベクトルを逆にすれば、ベクトルは放射状に四方八方へと広がっていき、そこには多様な人々の多様な生活が垣間見えてきます。放射状に広がっていくベクトルでは、ただ文化コードを張り付ければよかった従来の没個性的なストックフォトとは異なり、誰をどのように撮るかというテーマの選択から撮影方法まで、カメラマン一人一人の思想や感性が試される写真になるでしょうし、カメラマン一人一人がなぜそのテーマを選択し撮りたいのかという動機や意味づけを明確に持つことも必要となるでしょう。
以上、これからのストックフォトの方向性について考えてみましたが、書くことは簡単ですが、それを実践するのは容易ではありません。従来的なストックの要素をまったく排除することも現実的ではないと思います。上記のような方向性を意識しながら個々にとって可能な範囲で撮影を進めていくことで少しづつ方向転換していくのがよいのかもしれません。
※monzenmachi photographyでは、LGBTやディスアビリティーの方々難病と戦っている方々はじめ、国籍・性別・年齢にかかわらず幅広くモデルさんを募集しています。フォトモデル募集のページまたはコンタクトフォームよりぜひご連絡ください。