今年(2025年)の初めにGettyimagesとShutterstockの合併が発表されてからすでに半年以上が経っていますが、とりわけこれら2社のアーカイブおよび販売サイトの合併が具体的にどのような形になるのかについてはまだはっきりと公表されていません。
現状では合併前と同じように、それぞれの販売サイトは独立して存続し、特に何の変化もないようにみえます。
合併が発表された当初、2社のアーカイブが統合されてより多様な顧客ニーズに応えることができるというようなことが公表されていたように思いますが、はたしてこの2つのアーカイブが統合されて販売サイトも1つになるのでしょうか?
それとも(GettyとShutterstock)二つの販売サイトがこの先も併存していくという形になるのでしょうか?
合併の発表後、その後の公式の情報も少ないので、個人的な見解や予測を交えながら、GettyimagesとShutterstockの合併がこれから具体的にどのようになっていくかについて予想してみたいと思います。
個人的には、サイトを1つに統合するのは非常に難しいと考えています。というのはストックフォトの「テイスト」がGettyimagesとShutterstockではかなり違っているからです。
その違いはキュレーションの度合いが高いアーカイブとキュレーションの度合いが低いアーカイブから生じています。
キュレーションとは、膨大な情報やコンテンツを、独自の基準で選別・整理し、購入者(顧客)に分かりやすく提示することを意味しています。
いうまでもなく、どのストックフォト会社も販売に適した技術レベルの写真を選定し販売していますが、それだけではなく、特に写真の「テイスト」に関して独自の基準で選別して提示することがストックフォトのキュレーションです。
写真の「テイスト」は、その写真が持っている色合いや雰囲気などのスタイルや、写真ににじみ出ている写真家やフォトグラファーの世界観や感覚・感性など、写真を見る人の感覚や感情に大きく訴えかける要素から成っています。
そしてどのような「テイスト」の写真を販売サイト(アーカイブ)の上位に掲載するかを決めることがストックフォトのキュレーションです。
キュレーションを行うと、アーカイブ自体の個性やオリジナリティが強まり他社との差異化を図ることができますが、キュレーションは必ず行うべきものというわけではなく、キュレーションを重視するかしないかは各ストックフォト会社によって差があります。
ストックフォト市場で汎用的で売りやすい写真ばかりを多く上位に掲載しているアーカイブはキュレーション度が低く、逆に、必ずしも既存のストックフォト市場において売りやすいわけではない、個性や独自性のある写真をアーカイブの上位に掲載している場合、その会社のアーカイブのキュレーション度は高いということになります。
既存の大手のストックフォト会社の中で最も高いキュレーションを行っているのが、GettyimagesとStocksyです。
日本のPixtaのアーカイブも(GettyimagesとStocksyとかなりテイストは異なりますが)結果としてキュレーション度の高いアーカイブ構成となっているようにみえます(Pixtaのキュレーションに関してはこの記事とは別の記事で後日述べてみたいと思います)。
一方、Shutterstockは市場でよく売れる、きれいで技術はあるけれどもテイストはありふれた写真を販売してきたサイトのため、キュレーション度は低いといえるでしょう。
アーカイブのキュレーション度が高い場合、任意の写真を1枚見れば、慣れた人ならば、これはGettyで買った写真、こっちはStocksy、それはPixtaで買った写真だとすぐに判別できると思います。
キュレーション度の高いアーカイブが良く、低いアーカイブは悪い、ということでは決してありませんが、キュレーション度の高いアーカイブを構築することは、手間と時間と人手がより多くかかります。
販売サイトで日々売れた写真の掲載順位を高くして並べるだけであれば、AIに頼らなくてもほぼ自動的にできますが、キュレーション度の高いアーカイブを構築することは一朝一夕にはできません。
会社の必要とする独自のテイストはこのようなものだということをコンテンツクリエイターに伝え、講習会やウェブミーティングをこまめに開いてクリエイターを育てることから始めなければならないからです。
このように手間暇のかかるキュレーション度の高いアーカイブと、キュレーション度の低いアーカイブを一つにまとめて統合することには細心の注意が必要です。これまで苦労して築いてきたオリジナル性の強い(キュレーション度の高い)アーカイブの濃度が薄まってしまうことになり得るからです。
そして、キュレーションの濃度が薄まってしまうと、これまでその「味(テイスト)」に慣れてきた顧客は不満に感じることでしょう。
キュレーションの濃度が違う二つのアーカイブを統合するということは、別々の人気ラーメン店のスープを混ぜ合わせてなおかつ顧客に満足してもらうことと同じくらい難しいことだといえそうです。
では、どのようにアーカイブを混ぜ合わせて統合すれば、顧客にとってより美味しいアーカイブができるのでしょうか?
Gettyimagesには本体のGettyimagesのストック販売サイトのほかに、そのセカンドラインとしてiStockの販売サイトがあります。
おそらく、このiStockのサイトがGettyimagesとShutterstockの間のキュレーション度の乖離を埋める緩衝材になるでしょう。
iStockのアーカイブはキュレーションの度合いがGettyimagesほど高くなく、Shutterstockほど低くもない、中程度にキュレーション化されたサイトです。
iStockは専売のコンテンツと併売のコンテンツが共存しているサイトで、専売コンテンツ(iStockとGettyimagesでのみ販売されるコンテンツ)と、併売コンテンツ(iStock以外のサイトでも販売されているコンテンツ)がいっしょに販売されています。
販売ページにおける表示(検索)順位は、基本的にiStock専売のコンテンツが優先的に表示されますが、その優先度合いは(以前は高かったですが)今はそれほど高くないため、併売コンテンツも適度に最初の方の検索順位で表示される可能性が高くなっています。
Gettyimages本体のアーカイブとShutterstockのアーカイブを一つにまとめることは、すでに見てきたように両者のキュレーション度の違いから、かなり難しいと思いますが、iStockとShutterstockのアーカイブならば、すでに多くの併売コンテンツがiStockのアーカイブに併存しているので、統合しやすいはずです。
ここからは個人的な予測となりますが、Gettyimages本体のアーカイブに関しては、そのキュレーション度の高さから、今後もどこにも統合されずにほとんどそのまま残ることになるでしょう(ただし、動画コンテンツの一定部分がShutterstock系列のアーカイブからGettyimagesのアーカイブに移動するかもしれません)。
大規模なアーカイブの統合があるとしたら、iStockとShutterstockにおいてだと思います。Shutterstockのアーカイブの中から大量の上位コンテンツをiStockに移動させて既存のiStockのアーカイブを補強したり、その補強されたアーカイブとともに新しい販売サイトを立ち上げたりということが生じるかもしれません。
加えて、Shutterstockのアーカイブの中で、あまり売れないコンテンツと、iStockのアーカイブの中で同じくあまり売れないコンテンツをまとめて、AI訓練用専門の素材販売サイトとして別のサイト(例えばaiStockという名前のサイト)をつくることも可能でしょう。
GettyimagesとShutterstockというストックフォト業界における2大巨頭の突然の合併によって市場が寡占化され、他のストックフォト競合他社が埋もれてしまうといった懸念も生じていますが、キュレーション度の高い特徴的なアーカイブを持っている会社であれば、それほど心配はないのではないかと考えています(この点については日本のPixtaを例に別の記事で考えてみたいと思います)。
一方、低いキュレーションの度合いの汎用的なコンテンツを中心としたアーカイブだけを持っている会社の場合には、Shutterstockの膨大なコンテンツと適度にバランスよくキュレーション化されたiStockのコンテンツの連合軍と、汎用的なコンテンツという平原で戦わなければならないので、厳しい合戦になるかもしれません。