プロとは何か?
プロとはだれか?
国家試験によって職業が決まる場合は、プロという修飾語をつけると逆におかしく聞こえます。プロの医者、プロの高校教師、プロの弁護士とは言いません。国家試験によらず、企業組織から給与をもらう人々も一般的に会社員と呼ばれ、プロの会社員とは呼ばれません。プロという言葉が使われる(もしくは使われることが想定されている)のは、国家試験によらない職業で、企業組織に属していない個人に対してでしょう。プロフォトグラファーはじめ、プロ作家(職業作家)、プロコンサルタント、プロ棋士、プロスポーツ選手、プロの画家やイラストレーター、ダンサー、役者、最近ではプロユーチューバーというのもあるかもしれません。
プロのイメージ
基本的には国家試験によらず、企業組織に属さない個人の職業を、非専業(アマチュア)と区別するために用いられる「プロ」という修飾語ですが、この言葉のイメージはかなり狭く連想される場合がしばしばあります。プロ野球選手の中にはトップクラスの数億円プレーヤーから2軍の選手まで年棒にかなりの幅がありますが、プロ選手という言葉はトップの華やかな選手のみを連想させる場合があります。しかし、実際は個々人によって、技術や人気、報酬は非常に幅が広い場合がほとんどです。
プロという言葉が超一流のプレーヤーをもっぱら連想させるとしたら、それはプロという言葉には、際限のない報酬の可能性が込められているからだと思います。国家試験による職業や、会社組織に属している会社員の場合は、給料の幅はもちろんありますが、その上限はある程度の範囲で決まっていますが、プロと名の付く職業は、そのような上限はありません。なので、超有名スポーツ選手や、有名俳優やタレントのように、一流企業の会社員や高位の官僚の報酬を簡単に超える人々も出てくるのです。
プロの内実
しかし、そのような華やかな連想としてのプロのイメージだけでは、非常に多様な職種の大勢のプロのほんの一部しか表すことができません。プロとは、実のところ、狭い専門知識を持った職人(アルチザン)なのです。非常に狭い専門知識の行使を日々繰り返し業務として行うということがプロの本質であり、例えば、バントだけを行うプロ野球選手、代走だけを行う職人的な選手が、プロを体現しているようにみえます。むしろ、プロでオールラウンダーというのは例外かもしれません。
プロのカメラマンについていえば、カタログ撮影を数多くこなしている商品カメラマンは、他分野のカメラマンの誰よりも合理的な切り抜きの方法をいくつも知っていたり、フードスタイリストと組んでいつも撮影しているフードフォトグラファーは、シズル感を出すために食品の表面に塗るベストな薬品の調剤割合を編み出したり、風景写真家はアマチュアカメラマンに向けた講習会で普段自分でやっているフォトショップでの見事なレタッチ方法の核心部分は(高度すぎるという理由で)教えられなかったり、工学部出身で自分で写真をほとんど撮らずに機材のレビューだけをしているプロカメラマンもいたり。というような、非常に微細な専門性を深く掘り下げて、日々その知識を実践していくことがプロカメラマンの業務であり、優秀なハイアマチュアの人々にみられるような、どの分野でもオールラウンドできれいな写真を撮ろうと広範囲に手を広げて努力することとは対照的です。
プロの役割
しかし、単に自分の好きなことを深く掘り下げればプロというわけではなく、深く掘り下げる専門性が、業界・市場というコマーシャリズムの要求に答えるものでなければ単なるオタクか孤高の芸術家になってしまいます。プロとはコマーシャリズムの声(要求)を最も忠実に商品制作に反映できる人々のことであり、コマーシャリズムの枠を超えるようなオリジナリティーを持った人のことではありません。写真で言えば、後者の人々は写真作家の人たちということになるでしょうが、現在の日本ではそうした芸術的作品はなかなか売れにくいようです。(ただ、前衛的な作家たちの実験的な手法や解釈を、より分かりやすい形でコマーシャリズムに落とした作品(商品)が売れる可能性があるので、そのような作家の作品を注意深く鑑賞することはストックフォト含めてコマーシャリズムの撮影に際しても大いに勉強になることは間違いありません。)
このように考えると、プロというのは超人的な技や圧倒的なオリジナリティーを駆使して大きな報酬を得る人というイメージよりも、業界や市場と密接な関係を保ちながら、その要求に基づいて商品を制作する下請け的な職人のイメージがみえてくると思います。
ストックフォトに関していえば、マイクロストックフォトの創成期とは異なり、現在はマイクロストック市場も成熟化が進み、業界や市場がどのような写真を求めているかという声が(2005年のマイクロストック市場の開始以降)10年以上の市場的蓄積を経て、定式化されつつ(あるいはやや形骸化した形も含めて)まとまって聞こえるようになってきたと感じます。その市場からの声や要求に最も忠実に応えられる人が、プロのストックフォトグラファー(プロストッカー)ということになりますが、そのようなプロのストックフォトグラファーというあり方は、雑誌などの紙媒体が衰退する中にあって、益々多くのプロカメラマンを魅了するかもしれません。もちろん、プロのカメラマンであることと、プロのストッカーであることは同義ではありませんが、市場の声をコツコツ拾い上げて形にする職人気質は共通しているでしょう。
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