「ストックフォト」という言葉は、この10年の間に写真愛好家の間で急速に認知されるようになりましたが、一般の人で「ストックフォト」とは何か?ということ知っている人はまだ多くないようにみえます。そこで、改めて「ストックフォト」とは何か?ということを説明してみたい思います。
ストックフォトの定義
「ストックフォト」という言葉をウィキペディアで検索すると、次のように出てきます。
「ストックフォト(Stock Photo)とは、頻繁に使用されるであろうシチュエーションで予め用意された写真素材のこと。もしくは、写真を含むそのほかマルチメディア素材のこと。」(ウィキペディア参照)
しかしこの定義だけでは今一つよくわからないと思いますので、具体的な事例を挙げてみましょう。
ストックフォトのシステム
たとえば、もしあたなが自分で商売を始めて広告を(ホームページや雑誌などに)掲載しようと思ったときに、自分の店にぴったり合ったイメージの写真が何枚も必要となるでしょう。必要な写真のイメージはそれぞれの店によって異なり、学習塾ならば大勢の子供の写真だったり、介護の会社ならばヘルパーとシニアが同時に写っている写真だったりします。
そのような広告用の写真を作るためには二つの方法が考えられます。
1つは、自分でカメラマン、モデル、ロケ場所やスタジオを探し出してオリジナルの広告写真を撮影することです。
もう1つは、自分のイメージに合った写真(例えば大勢の子供の写った写真)を誰かから借りてきて、それを自分の広告写真として使わせてもらう方法です。
最初の例では、何よりもオリジナルの写真が手に入ることが大きな利点ですが、難点としてカメラマン、モデル、ヘアメイク、衣装、スタジオなどにかかる経費を自分で負担しなければならないため、広告写真を数枚撮るために少なくない額の資金が必要です。
もう1つの例の場合はイメージに合う写真を持っている人に写真を貸してもらって広告写真をつくるので、オリジナルの写真とはならないかもしれませんが、撮影費やモデル代などを大幅に節約することができます。
そして後者の例のように、好きな写真を借りてきて広告写真として使うというシステムこそが、ストックフォトなのです。
デジタル時代のストックフォト
ストックフォトはデジタルカメラが普及するまでは、中小のフォトエージェンシー(レンポジ会社)を通じてフィルム(ポジフィルム)の貸し借りが行われていたため、とりわけ日本では「レンタルポジ」や「レンポジ」と呼ばれていました。
フィルムカメラの時代には、プロのカメラマンたちは様々なテーマの写真を撮りため、それらをレンポジ会社に預けていました。広告写真を探している人たちはレンポジ会社にやってきて、各々のレンポジ会社のライブラリーの中から好きな写真(ポジフィルム)を借りて広告用のポスターなどを製作していたのです。
しかし、2000年代に入ってデジタルカメラとインターネットが普及すると、そのようなフィルムの貸し借りを行っていた小さなレンポジ会社の多くは急速に縮小あるいは廃業を余儀なくされました。その理由はまさに、デジタルデータとしての写真をインターネットを通じて世界的な規模で販売する大手のストックフォト会社が台頭してきたからです。
現在ストックフォトのほとんどすべては、デジタルデータとしての写真のかたちで、インターネット上で取引されています。フィルム時代には「レンタル」でしたが、現在はレンタルではなく、写真データは写真が必要なデザイナーや広告会社などに販売され、それぞれのストックフォト会社の規約の範囲で自由に商用利用されています。
ロイヤリティーフリー
2000年代半ば以降ストックフォト会社が急速に進展してきた理由は、ストックフォトは撮りおろしのオリジナル写真よりも圧倒的に安く、かつ手軽にインターネット上で取引できるという利便性があったからですが、それに加えて、いち早くRF(ロイヤリティーフリー)というシステムを導入したこともストックフォトが支持された大きな理由です。
以前のレンタルポジは、レンタルした写真を広告写真として使える「期間」が決められていました。その契約期間が過ぎると、再度更新料を払わなければ写真を使うことができませんでした(このようなシステムはRM(ライツマネージド)と呼ばれます)。それに代わって、デジタル化以降のストックフォト会社は、写真の使用に時間的な制約を付けず、いつでも何度でも写真を使用できるというRF方式を採用しました。これによって写真の使用者はRMよりも安く気軽に写真を広告に使えるようになりました。RFの登場によって撮影にかかわる人々(カメラマンやモデル)の収入が相対的に減少するという問題点などもありますが、RF方式のストックフォトは現在、世界の大手企業の広告に採用されることも普通のこととなっています。インターネットを通じた写真(商用写真)の流通の場としてのストックフォトサイトは、広告用の写真を必要とする人々にとっては今やなくてはならないインフラとなったのです。
なお現在は、写真だけでなくイラストや動画、音声ファイルもRFのマルチメディア素材として各ストックフォト会社によって販売されています。