本記事はプロモーションを含みますが中立的にレビューしています

―誰かの理想じゃなく、私として生きる―

インベカヲリ★『理想の猫じゃない』は、62人の女性のポートレートと、その女性たち自身の言葉(テクスト)から成る、稀有な写真集です。 写真だけでは読み取れない、被写体となった女性たちの「生の声」が加わることで、作品はポートレートを超え、ドキュメンタリーであり、告白であり、社会への問いとして見る(読む)ことができます。

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「理想」の持つ暴力性

この写真集のタイトルは、2017年の動物虐待事件の犯人の言葉理想の猫じゃないから殺した に由来しています。『理想の猫じゃない』というタイトルは、「理想像から外れた存在は排除される」という社会構造そのものを象徴する言葉として選ばれています。
インベカヲリ★がこの言葉をタイトルに据えたのは、女性たちが日常的に受けている「理想の押しつけ」と、その外側に追いやられる痛みを、最も端的に示す言葉だったからだといえるでしょう。

本書に登場する女性たちは、生きづらさ、トラウマ、社会からの逸脱、自己否定、怒り、破壊衝動など、いずれも「理想の女性像」から外れたようにみえる人々です。

インベカヲリ★は、そうした女性たちを写すことによって、私たちは「理想じゃない」という理由で誰かを排除していないか、「理想」を押し付けようとすることの暴力性に気づいているか、という問いを投げかけるのです。

この写真集の構造

『理想の猫じゃない』は、写真(62人の女性のポートレート)とテクスト(被写体となった女性たちの言葉)が独立しながらも、互いを補完する二層構造(写真とテクストが交互に置かれるかたち)となっています。

テクスト(被写体の女性たちの言葉)の中には、怒りや 皮肉、笑い、開き直り、諦念、希望 といった多様な感情が混ざり合っています。

写真だけでは読み取れない背景を、テクストが補い、テクストだけでは想像しきれない存在感を、写真が補っています。写真とテクストの二つが揃ってリアルにその人物の姿が浮かび上がるように組まれた写真集です。

対話&演出

インベカヲリ★の被写体との向き合い方の特徴は、被写体を知って(理解して)撮影するという姿勢を徹底し、 インタビュー(対話)→設定を共に作る(演出)→撮影(写す) というプロセスを貫いている点にあります。 モデルを募集し、会って 話を聞き、撮影の設定を考えて、その上で実際に撮影を行うようです。

インベカヲリ★の写真の演出(設定)に関しては、本書に限らず、非常にシュールなものが多く、例えば、パジャマで裸足で坂道を駆け下りていく女性や、裸でビルの壁をよじ登る女性の後ろ姿、ペンギンの人形と一緒に歩道橋から下を眺める女性、普通の道路で歩きながらラーメンを食べるスーツ姿の女性など、一見すると非常に奇抜なアイデアに見えますが、写真と一緒にテクスト(被写体の女性たちの言葉)を読むと、それが被写体となった女性たちの内面を象徴的に写し出すための演出であることが感じられます。

前回のレビューで取り上げたソール・ライター、被写体と適切な距離感を保ちながら被写体を見守るように撮る写真家だとすると、インベカヲリ★は、被写体に可能な限り接近し、被写体の内側をえぐり出し、それをさらにクローズアップしたりデフォルメして写し出す写真家だといえます

 

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